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2010年11月 アーカイブ

サンゴスの玉 2

「そんなにおまえがいうならしかたはなか。行たてきなさい。」


翌日、人木は山寺めざして出かけました。山を一つ越えると途中に、一軒家がありました。


その日はもう夕暮れになっていましたので、その家に泊めてもらいました。亭主が、


「あんたはどこに行きなさるか。」


と聞くので、人木が、


「わたしはずっと奥山の山寺に行くところです」


と答えると、


「そいなら、ぜひ和尚さんに聞いてきてもらいたいことがあります」


といいました。


「それは何ですか。」


「じつは、毎年咲いていた白菊の花が今年は咲かんので、どういうわけか聞いて下さい。」


「聞いてきましょう。」

人木は亭主のたのみをひきうけて、翌朝そこをたちました。里をすぎ山を越えて行くと、また日が暮れました。


ちょうどつごうよくまた一軒家がありましたので、そこに泊めてもらいました。


そこの亭主が、また聞き按した。


「あんたはどこに行きなさるか。」


「わたしは奥山の山寺に行くところです。」


「それでは、私のたのみを聞いて下さい。うちの娘がものをいわんようになったが、どういうわけか和尚さんに聞いてきてほしい。」


「よろしい。聞いてきましょう。」


夜が明けると、人木は朝早くその家を出て山寺へ急ぎました。


ところが途中に、大きな池があって、その池を渡らないと向うへ行けません。


人木が困ってしまっているとき、突然、池の水がさかまいて、そのうずまきの中から角の生えた大蛇が、恐ろしい姿で人木におそいかかってきました。


このとき人木がいいました。


「大蛇さん、大蛇さん、ちょっと待ってくれ。わたしを食べるのはやすいことじゃ。わたしはどうしても山寺に用があるので、その帰りにわたしをのんでくれ。」


「そうか。じつはおれはどうしても天竺に登れんが、どうしたわけか山寺の和尚さんに聞いてくれ。


そうしたら、おまえをのまないよ。」


「よろしい。聞いてきましょう。それでは、大蛇さん、わたしを向う岸へ渡してくれ。」


そこで、人木は大蛇の角と角の間に乗って、ぶじに向う岸に渡りました。


人木は、どんどん、どんどん急いで、とうとう山寺に着きました。


和尚さんは人木が来ることをちゃんと知っていて、ごちそうを作って待っていました。


「ああ来たか。ごくろうじゃった。さあ早く上ってゆっくりしなさい。」


人木は山寺に上って、和尚さんからたいへんなごちそうにあいました。

サンゴスの玉 3

そして、十日ばかりたちまちすぎてしまいました。


その間、寺の掃除もしたり、いろいろ手伝うことでした。


そのうち母のことが思われて、人木は和尚さんにいとまごいをすることになり、そこで、たのまれたことを聞いてみました。


「和尚さん、私がここに来る途中に一軒家があって、そこの亭主から白菊の花が今年は咲かんがどういうわけか、和尚さんに聞いてきてくれということでした。」


「うん。その花ならやすいことじゃ。咲くときは咲くわい、こういえばよろしい。」


「和尚さん、それからまた一軒家に泊ったところが、娘がものをいわんがどういうわけかきいてくれということでした。」


「それもかんたんじゃ。いうときはいうじゃろう、といいなさい。」


「和尚さん、もう一つおしえて下さい。大きな池の大蛇が天竺に登れないがどういうわけか聞いてくれということです。」


「それもかんたんなことじゃ。その大蛇はサンゴスの玉という玉を人間の手に渡せばすぐ天竺に登れるといいなさい。」


こうして三つの難題をみごとにといてもらった人木は、喜び勇んで帰って行きました。


池まで来ると、大蛇が真赤な目を光らせて、特ちかまえています。


「たのみは聞いてきたか。」


「はい、はい。大蛇さん、聞いてきましたからわたしを向う岸まで渡して下さい。渡してくれたらいいましょう」


そこで、大蛇はまた人木を角と角との間に乗せて、向う岸へ渡しました。


「さあ、渡したぞ。早くおしえてくれ。」


「それではおしえましょう。大蛇さん、あんたはサンゴスの玉という玉を持ってあるそうじゃが、それを人間の手に渡せばすぐ天竺に登れると和尚さんがいいましたよ。」


人木がいい終ると、大蛇はがぼうっと水音を立てて池の底にもぐりこみました。


すぐまた現われて、光り輝く美しい一つの玉を人木に渡しました。それはサンゴスの玉でした。


すると、とつぜん、黒雲がわき起って、大蛇はその雲の中にはいって、くるくるくると舞いながら、たちまち天に登っていきました。


大蛇からサンゴスの玉をもらった人木は、大喜びで一軒家までやってきました。


「亭主さん、今でした。」


「それはごくろうでした。ところで娘のことは聞いてくれましたか。」


「はいはい。聞いてきましたよ。娘さんはものをいうときはいうじゃろう、ということでしたよ。」


その晩はそこに泊りました。ところがあくる朝、娘が、


「昨日はおせわになりました」


とりっぱにものをいったのです。亭主はとんと喜んで、


「おやおや、ほんとに娘がものをいうた。これはあんたのあかげじゃ。ありがたい。ところで、あんたはバキイ(婆貴)はいますか。」


「いや、まだひとりもので母と二人くらしています。」


「ほいなア、この娘をもろうてくれんか。」


そこで、人木は片手にサンゴスの玉を、片手に娘の手をにぎって、大喜びで帰って行きました。


やがてまた前の一軒家につきました。すると、亭主が、


「わたしがたのんだことは聞いてくれましたか。」


「はいはい。聞いてきましたよ。白菊の花は、咲くときは咲くわい、といいましたよ。」


その晩はその家に泊りました。


翌日、夜が明けてみると、白菊がいくつもきれいに咲いているのです。亭主はたいそう喜んで、


「これはあんたのあかげじゃ。今まで咲かんのがこんなにきれいに咲いた」


といって、一枝切ってくれました。


人木はサンゴスの玉と娘の手をしっかりにぎり、娘は白菊の花を胸にだいて、二人は喜び勇んでわが家にかえりました。


「おっ母ん、今じゃったよ。ほア、サンゴスの玉に、花嫁と白菊の花をもろうてきた。」


母はたいへん喜んでくれました。


それから、三人仲よく力をあわせて働いたので、今まで貧乏であった人木はいつのまにか金持になって、よかくらしをしましたそうじゃ・・・。

以上、屋久島ツアーで人気のある屋久島の民話「サンゴスの玉」でした。

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